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デルフリンガーを忘れたのは仕方ない!後悔している時間は無い! とにかく今は相手が攻撃してくる前に攻撃できる態勢を整えなければならない! デルフリンガーを構えようとした左手を素早く懐に忍ばせ銃を掴む。相手が完璧に視認出来ている以上杖を振る前に銃で相手を撃つのは可能なはずだ。 「貴しゃま、ぼくにょヴェルダンデににゃにをしゅりゅんだ!」 何を言っているのか全くわからん!黙ってろ! ギーシュが杖を構えようとする。しかしそれより一瞬早く杖を抜いた相手はギーシュの杖を吹き飛ばす。 やはり敵か!?射殺しようと銃を取り出そうとした瞬間、 「僕は敵じゃない」 相手のその声に一瞬動くが止まってしまう。 「姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかしお忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。 そこで僕が指名されたってワケだ」 相手は帽子をとり一礼しながら、 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」 そう宣言した。 王女の増援だったのか。危うく殺すところだった。初めから言っていればいいものを、しかも心もとないだと?なら初めから頼むな! しかし本当に王女の増援かどうか怪しいな。王女はギーシュの尾行に気づかなかった位に間抜けだからな。安心は出来ない。ゆえに懐から手を出すことはしない。 「すまない。婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬ振りはできなくてね」 ワルドは首を振りながらギーシュに言った。それにしてギーシュの顔を見ても顔色一つ変えないとは、なかなかだな。 しかし婚約者?誰の?モグラに襲われていた?まさか…… 「ワルドさま……」 いつの間にか立ち上がっていたルイズは震える声でワルドに声をかける。 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 マジィ!?まさか婚約者ってルイズのことか!? ワルドは笑みを浮かべるとルイズに駆け寄り抱き上げる。 「お久しぶりでございます」 「相変わらず軽いなきみは!まるで羽のようだね!」 「……お恥ずかしいですわ」 マジみたいだ。何だか会話がかみ合ってない気がしたが……しかしルイズの婚約者ということはトリステインの貴族か。なら問題ないか。 銃を離し懐に忍ばしていた手を出す。 ルイズの家は結構家柄は良かったはずだ。それの婚約者ということはワルドも位が高い貴族なのだろう。 それに女王陛下の魔法衛士隊のなんとか隊長とも言ってたはずだ。よくわからないが女王直属の兵隊の隊長ということだろう。 しかも魔法って付くぐらいだから魔法が使える兵隊の隊長ということになる。 多分クラスは『スクウェア』だろう。隊長をしているくらいだから教師と同じ『トライアングル』ではないはずだ。 やばい!これじゃアルビオンでルイズ(ならびにギーシュ)を殺すっていう計画が恐ろしく困難になるじゃないか!チクショウ! どうして幸福になろうと努力すると困難が出てくるんだ! 「彼らを、紹介してくれたまえ」 ワルドはルイズを地面に下ろし帽子を深く被りながら言った。 「あ、あの……可哀想なのがギーシュ・ド・グラモンで、変な格好なのが使い魔のヨシカゲです」 へ、変な格好……そりゃこっちの人間からしたら変な格好だろうからな納得しよう。 そしてちらりとギーシュを見やる。ギーシュは倒れていた。前のめりに倒れていた。倒れ付していた。そして微かな嗚咽が聞こえていた。 本当に可哀想な奴だ。さすがにショックが大きかったのだろう。 さすがのワルドもこれには引いているようだ。ルイズもしまった!という風な顔をしている。 「きき、きみがルイズの使い魔かい?ひひ、人とは思わなかったな」 嗚咽交じりの沈黙から早く逃れるためかワルドが話しかけてくる。そりゃ耐えられないだろうな、この空気は。 「ぼ、ぼくの婚約者がお世話になっているよ」 無理やり笑いながら話しかけてくるその姿はやけに頼もしく見える。ワルドはギーシュ空間を一人で打ち破ろうとしているのだ。 やはり只者ではない。 「初めまして、ヨシカゲです」 そう言って頭を下げる。すまないワルド、これが私に出来る最大限の支援だ。 しかしそこで会話が終わってしまう。また嗚咽交じりの沈黙が始まった……
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王女親衛軍鬼籍 国民番号 PC名 藩国名 12-00205-02 主和 土場藩国 12-00259-01 JAM 土場藩国 12-00260-01 ¥600 土場藩国
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……ハイジョン、これは犬ですか? いいえ、これは眼鏡です。 わたしの中のジョンも眼鏡だと言っていた。 わたしも眼鏡だと思う。それ以外の何にも見えないし。 そう、眼鏡。見るからに眼鏡。誰が見ても眼鏡。眼鏡祭りだ。 わっしょい、わっしょい。あはは、うひひ。わっしょい、わっしょい。 ……ちょっと落ち着こう。冷静になろう。とりあえず手に取ってみよう。 ほうほうほほう。こりゃ立派なもんね。レンズの輝きなんて、磨き上げられた宝玉も真っ青。 パッドの可動域はかなり広めに作られてる。 蝶番も九十度以上は余裕だから、小さい人も大きい人もオッケーってわけか。 しっかしこれどういう技術使えばできるんだろう。かなりの熟練職人が練成したんだろうな。 この軽さ。かといって頑丈さを犠牲にしてるわけじゃない。 本来なら両立できないはず二つの柱がでんとそびえているわけよ。すごいね。 無理に両立してるわけじゃなくて、ごく自然にそう作られている。 この屋根を支えるにはこの太さの柱が必要ってな感じで。 そして色。この色。草原の緑と素晴らしいコントラストを描く赤。 使いようによってはかなり下品になっちゃう色なんだけど、これは違う。 炎の赤? 血の赤? 夕陽の赤? 唇の赤? 髪の赤? どれも違う。 フレームに使われた赤は、わたしが見たことのない赤だ。 地面に置かれていたせいで少し土がついていた。息を吐きかけ、ハンカチで拭く。 ああ、きれい。これはきれい。日用品じゃなくて芸術品。見てるだけでうっとりしちゃう。 でもね。 「ミスタ・コルベール」 「なんだね。ミス・ヴァリエール」 「もう一回召喚させてください」 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」 「眼鏡は使い魔になりません」 「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない」 いやいやいやいや。いくらなんでも眼鏡は無いって。 「彼は……」 口に出してからおかしいことを言ったと気づいたんだろうね。 眼鏡に彼も彼女もないって。 「コホン。その眼鏡は……」 あ、ごまかした。 「ただの眼鏡かもしれないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければならない。古今東西、眼鏡を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。彼には君の使い魔になってもらわなくてはな」 あ、また彼って言った。 「嫌です。伝統がどうこういったってわたしは嫌です」 「だからね」 「わたしは眼鏡なんて嫌です」 「はい」 「なんだね、ミス・タバサ」 「私は眼鏡が好きです」 「君ちょっと黙っててくれないか。頼むから。……ミス・ヴァリエール。眼鏡をそう毛嫌いするもんじゃない」 毛嫌いはしてないけどね。でもねぇ。 「おいおいゼロのルイズが眼鏡召喚したぜ!」 「すごいな、俺たちにゃ到底真似できないぞ!」 ここでどかんと笑いが起きた。 あーあ、自分のことでなけりゃわたしだって笑いたいよ。 でも自分のキャラってもんがあるし、とりあえずマリコルヌ睨んどこう。 「ミスタ・コルベール。やっぱり眼鏡は使い魔になりません。眼鏡は物じゃないですか」 「いやしかし。物といえば、ゴーレムだって物なわけじゃないかね」 なるほど、一理ある。あってもやだけど。 まずいな、このまま言い負かされちゃうと本当に眼鏡使い魔にするはめになる。 そんなことになったら……そんなことになったら……まずい、まずい。まずいって。 「眼鏡はゴーレムじゃありません」 「しかしだね……」 「私は眼鏡なんか嫌です」 「私は眼鏡が好きです」 「ミス・タバサ、少しでいいから黙っていてくれ」
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「おや、君達どこかにでかけるのかい?」 広場にやってきたギーシュが、シルフィードに乗ろうとする育郎達を見つけた。 「この娘の家に遊びに行くのよ」 竜の背にのるキュルケが、タバサを指差して答える。 「それなら明日にすればいいいいじゃないか?虚無の曜日なんだし」 その言葉にニヤリと笑うキュルケ。 「それがね…タバサの家に泊まって、次の日はヴァリエールの家に行くのよ!」 「…確か君たちの実家は、宿敵同士じゃなかったっけ?」 「だから……… い い ん じ ゃ な い の !」 「なにがいいのよ…あんたどんな神経してるの?」 シルフィードの傍らに立つルイズが、信じられないと言う目をキュルケに向ける。 「あら、いくらラ・ヴァリエール家でも、客をいきなりとって食べるような真似は しないでしょう?」 「当たり前じゃない。例え相手がツェルプストーでも…って誰が客なのよ!?」 「 わ た し 」 毎度のやりとりを始める二人に、肩をすくめるギーシュ。 「そういえば彼女は?姿が見えないけど、なにかあったのかい?」 育郎がいつもギーシュの隣にいるはずの、モンモランシーが居ない事に気付く。 「ああ、僕の使い魔が見当たらなくてね。手分けして探してるんだ」 「君の使い魔?」 「そう、僕の可愛いヴェルダンデ!そういえばイクローに紹介した事はなかったね? 今すぐに君に見せたいのはやまやまなんだが…そうだ!君たちも一緒に」 「時間がない」 ギーシュの言葉をタバサがさえぎる。 「泊りなんだから別にいいじゃないか…そんなに急ぐものでも」 「私の家はラグドリアン湖の近く」 ラグドリアン湖はガリアと国境を跨って広がっている。対して、ヴァリエール領は ゲルマニアとの国境にあり、ラグドリアン湖との距離は結構なものである。 おかげで、虚無の曜日に日帰りで用を済ます、というわけにはいかず、タバサの家に 泊る事になったのだ。 「…でもちょっとくらいなら」 「なにやってるのよギーシュ!最近使い魔が自分をかまってくれないって泣いてたから、 こうやって一緒に探してあげたっていうのに、私だけに探させるつもり!?」 広場で話し込むギーシュを見つけ、モンモランシーは顔を真っ赤にさせて詰め寄る。 「す、すまないモンモランシー。たまたま彼らを見つけたから、つい……… あ、そうだ愛しいモンモランシー!ヴェルダンデは見つかったかい?」 「いなかったわよ… これだけ探して見つからないんだから、どこかに潜ってるんじゃないの? だったら食事の時間まで待って、その時にでも」 「フッ、僕もそう考えたんだけど…食べたらすぐその場で潜っちゃうんだ…」 がっくりと肩を落とすギーシュ。 「なにか好物でも置いて、よって来るのを待てば?」 見かねて育郎がアイデアを出す。 ちなみこの時タバサは、『そんな奴ほっとけ』と目で訴えていたのだが、残念な事に 気付いてもらえなかった。 「うーん…好物か。ミミズは勝手に食べてるし…」 「そういやおめーの使い魔って何なんだ?ミミズとか、潜るとか…カエル?」 「それは私の使い魔よ」 デルフの言葉に、モンモランシーが腰に下げた袋からカエルを取り出し、手にのせる。 「カエルを持ち歩いてるのか!?」 「あたり前じゃない、私の使い魔なんだし」 「なにか変かいイクロー?」 「い、いや別に…ルイズはカエルが嫌いだから…」 実際のところは、女の子がカエルを持ち歩く事に驚いたのだが、それを説明するのは いろいろと面倒なのでそう答える。 ちなみにこの時タバサは竜から降り、育郎をツンツンつついて、出発をせかして いるのだが、軽いカルチャーショックを味わった育郎には気付いてもらえなかった。 「じゃ、二人のケンカが終る前に戻した方がいわね。ホラ、ロビン」 騒ぐルイズを横目に、袋の口を開いて使い魔に中に入るようにうながす。 「そもそも潜るのは水の中じゃなくて地面だよ。 なんてったって、僕の使い魔はジャイアントモールだからね!」 「モール…モグラかい?」 「相棒ジャイアントモール見た事あるか?始めて見たら笑っちまう程のでかさだぜ」 「そう!僕のヴェルダンデは、見た人間が思わず微笑んでしまう愛らしさなんだ!」 「それは一度見てみたいな…」 「ああ、君が帰ってくるまでにヴェルダンデともう一度仲を深めておくよ!」 「…その必要はないみたいよ」 「へ?」 モンモランシーが指差した先の地面がモコモコと盛り上がり、茶色の大きな生き物が 地面を突き破ってあらわれた。 「おお、ヴェルダンデ…ってあれ?」 膝をついてヴェルダンデを抱きしめようとするギーシュだったが、ヴェルダンデは その横をすり抜けて、モグモグと鼻をひくつかせながら育郎にすりよった。 「っと、よしよし…この大きさはすごいな。モグモグって鳴いてるし」 「だろ?でもこいつが愛らしいたぁ…この坊主もある意味てーしたもんだ」 「そうかな?結構可愛いじゃないか」 「マジか相棒!?だってでっかいモグラだぜ?」 「ヴェルダンデ!何故僕じゃなくイクローに!?」 三者三様のリアクションをとるなか、ヴェルダンデは変わらず、モグモグいいながら 育郎に自分の鼻をこすりつけている。 ちなみにこの時タバサは、育郎の服を引っ張って『とっとと行こう』とアピールして いるのだが、ヴェルダンデが盛大にじゃれ付いているため、育郎は気づかなかった。 「ひょっとして…この子の好きなものでも持ってるんじゃないの?」 「…ミミズをかい?」 モンモランシーの言葉に、ギーシュが怪訝な顔をする。 「そうじゃなくて、宝石とか貴重な鉱石とか…貴方の使い魔は、そういう物が好きで 自分の為に探してくれるって、この前自慢してたじゃない」 「そんなのイクローがもってるわけ…もってないよね?」 二人の視線が育郎に向けられる。 「あ、ああ…そんな、宝石なんて高価なもの」 もってます 先日モット伯との一件で、育郎は宝石を手に入れている。 もしそんな物を持っていると知られたら、当然何処から手に入れたかを聞かれる だろう。しかしモット伯との事を話すわけには行かない。自分だけならまだしも、 ルイズやシエスタにまで迷惑をかける事になりかねないからだ。 だからといって『拾った』等と言うには、あまりに高価な代物である。 「ああ、そりゃ多分俺だ」 どうしたものかと困っている育郎に、デルフが助け舟をだした。 「君が?とてもそうには見えないけど」 「あ、でも確かに背中の剣に手を伸ばしてるわよ」 幸運というべきか、育郎はミス・ロングビルからもらった宝石を、小さな袋に入れ、 デルフの鞘に目立たないようにくくり付けていたのだ。なにせ育郎は使い魔の身、 ルイズの部屋に住んではいるが、自分用の家具など持たない身である。 そんなものをしまう場所など存在しないのだ。 「おめーらみたいな若造にはわかんなくても、こいつにゃ俺の凄さが分かるんだよ。 よかったな坊主、良い使い魔をもててよ!」 「うーん、ひょっとして微妙な錆び具合が珍しいのかな?」 「おめーな…」 ぐりぐり 「…どうしたんだい、タバサ?」 「早く出発を」 「ああ、ごめんごめん…怒ったかい?」 「全然」 「…本当に?」 「本当に」 「………」 頭に杖を押し付ける時に込めていた力を考えると、とてもそうは思えなかったが、 むし返すのもどうかと思い、黙っている育郎であった。
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ゴーレムの肩に乗ったフーケは少しばかり焦り始めていた。 宝物庫の壁が壊れない。確かに硬いと思っていたがここまでとは。 細かなヒビが入っているようだが、一向に崩れる気配が無い。 やはり強攻策に出るのはまずかったかもしれない。もうそろそろ音に気づいた教師や生徒が現れるころだろう。 だが、ここで退いては『破壊の杖』を諦めることになってしまう。 (『破壊の杖』を盗む、自分の命も守る。両方やらなくちゃならないのが「盗賊」のつらいとこね) フーケが覚悟を決め、もう一発殴ろうとゴーレムを動かしかけた時、辺りが急に暗くなる。 上を見上げるとウィンドドラゴンが飛んでいるではないか。 (早いじゃないか!) 予想よりもずっと早い敵の出現。しかもドラゴンときたもんだ。どうもこの学院とは相性が悪いらしい。 「サバス!捕まえなさい!」 姿は見えないが、ウィンドドラゴンの背中に誰か乗っているのだろう。 その誰かが「サバス」に自分を捕まえるよう指令を送っている。 とっさに思いついたのは、このウィンドドラゴンが「サバス」だということ。 急降下してそのまま自分を捕らえる気か?身構えたそのとき、横から声が聞こえる。 「お前には選ぶべき道がある!」 ありえないことだった。ゴーレムの肩に自分以外で乗っている奴がいる。 声のした方を向く。 そこにいるのは、昼間に会ったばかりの謎の「変態」! 百戦錬磨のフーケの体が固まる。 変態が口を開けると、その中から一振りの剣が出てきた。その切っ先は真っ直ぐフーケに向かっている。 「いまさらだけどおでれーた。俺をこんな風に使う『使い手』は初めてだわ」 さっきとは違う軽い口調が変態から聞こえた。 攻撃するか、逃げるか。一瞬の迷いがフーケに生まれる。 それが命取りだった。 「つかんだ」 変態がいつの間にか目の前にいる。その両手はフーケの肩を力強く押さえ込んでいた。 この時点でやっと「逃げる」という選択肢を選んだのだが、時すでに遅し。 体がピクリとも動かない。 ジリジリと仮面のような顔が近づき、口が開かれる。 「そうだ相棒!スピードは出さず!ただしッ!『万力』のような力を込めてッ!」 口の中から剣がフーケに向かって伸びてくる。 剣が自分の顔にゆっくりと刺さっていくイメージが浮かぶ。それを振り払うように、フーケは腹の底から叫んだ。 「うわああああああああああああ!!ワーーナビーーーーーーーー!!」 叫びに応えるように、ゴーレムが暴れ始める。 「ふんばれ相ぼォォォォォォ!?」 「!!」 フーケが体を捻る(といってもほとんど動かなかったが……)。 変態の口から飛び出た剣が頬をかすめて飛んでいく。剣はそのまま地上へ落下していった。 「扱い酷くねェェェーーッ?」とか聞こえた気がするが…………気のせいだろう。 問題はこの目の前の変態だ。これだけゴーレムが暴れてるのに、少しも慌てる様子がない。と。 「フガッ!」 間抜けな悲鳴を上げながら変態は突如フーケの目の前で「爆発した」。 フーケは急に体が軽くなるのを感じ、素早く後ろへ飛び間合いを作る。 「ちょっと!ルイズ!自分の使い魔を攻撃してどうするのよ!」 「ちちょっと間違えただけよ!もう一発いくわ!」 さっきよりも派手な爆音が響く。フーケが音のした方を見ると、さっきまでゴーレムで殴っていた壁から煙が上がっている。 フーケは今度は一切の迷いなく、そこへ飛び込んだ。 そこからの行動はまさに一流の盗賊といえる素早さで、目的の『破壊の杖』を見つけ出し、犯行声明を壁に刻む。 外を見るとゴーレムが炎に包まれている。 どうやらウィンドドラゴンに乗ったメイジたちは、フーケが宝物庫にすでに侵入していることに気づいていないらしい。 フーケがニヤリと笑うと、ゴーレムが歩き出す。それを追いかけてウィンドドラゴンが宝物庫から離れていく。 いろいろ予想外の展開はあったが、最終的に勝てばよかろうなのだァァァァァッ!! フーケはちょっとハイになりながら、宝物庫から飛び降りた。 ルイズたちはシルフィードに乗ったまま巨大ゴーレムの後をつけた。 その間にずっとキュルケの炎、タバサの氷柱、ルイズの爆発がゴーレムを攻撃する。 しかしそれら全てを受けてもなお、ゴーレムの進行は止まらない……。 と、急にゴーレムの足が止まる。 そしてそのまま崩れていき、後には大きな土の山だけが残った。 「…………フーケは?」 「いないわね…………」 「逃げられた」 呆然とする少女達を二つの月が見下ろしていた。 学院からちょうど馬で4時間。 フーケはあらかじめ見つけておいた小屋が見えてくると、やっと一息付いた。 追っ手が来ている気配は無い。 小屋の前に馬を繋ぐと、さっそく盗み出した『破壊の杖』を手に持ってみる。 杖というには変わった形状と、見たこともない金属。 とりあえず杖を両手でしっかり握ると、愛用の杖にするように振ってみる。 …………何も起きない。 もう一度振ってみるが、うんともすんとも言わない。 大爆発が起きるのではないかという不安と期待があったのだが、肩をすくめる。 次に関連のありそうな魔法をいくつか唱える。 唱えるたびにドキドキするが、どれも反応は無い。 フーーと深い溜息をすると『破壊の杖』を地面に置く。さすがは秘宝といわれるアイテム。そう簡単に動かないらしい。 だが、そう簡単に諦める訳にはいかない。 …そう言えば、こういうのに詳しそうなハゲが、困った時は叩いてみるのが秘訣とか言っていたのを思い出す。 試しにショックを与えるために叩いてみる。動かない。今度は踏みつけてみる。動かない。グリグリしてみる。動かない。 なじってみる。動かない。なじりながらグリグリ踏みつけてみる。動かないが、少しイイ気分になった。 だが結局『破壊の杖』に変化は見られなかった。 しかたなくフーケは『破壊の杖』を持って、小屋の中に入っていった。 さて、これからどうするか。使い方が分からないことには先に進まない。 これらのマジックアイテムに詳しい人間は誰だろうと考えて、真っ先に浮かんだのはトリステイン魔法学院のメイジたちだった。 もう一度現場に戻るのは危険だが、まだ誰もミス・ロングビルと『土くれ』のフーケを同一人物と知る者はいないだろう。 そこで何食わぬ顔で学院に戻り、フーケを見つけたと言ってこの小屋のことを教える。 オールド・オスマンの性格からして、王室には頼ることはまず無いと考えられる。すると学院内から捜索隊が組まれるはずだ。 口ばかりの教師陣からして、それ程多くは選ばれまい。2~3人程度だろう。 それぐらいの数なら、あのレベルのメイジが束になってもどうにかできる自信が、フーケにはあった。 トライアングルだなんだ言っても、実戦経験が彼らには無さすぎるのだ。 肝心のところで尻込みしてしまう。……さっきの自分自身のように。 (結局、あいつらはなんだったんだろうね) あの不気味な姿を思い出して、すこしブルーな気分になる。 あのとき、謎の爆発が無ければ自分はどうなっていたことか。 先刻の戦いで何もできなかったことは、それなりにフーケのプライドを傷つけていた。 『破壊の杖』をしまう為に、チェストを開けながら回想を続ける。 冷静になって考えれば、あれはウィンドドラゴンの上に乗っていた誰かの使い魔なのだろう。 あの謎の爆発の魔法もそうなのだろうが……あんな魔法を使えるのは一体誰だ? 深く考えながらも『破壊の杖』をチェストに置く。そして、しまおうとしたその時…… カタ! (追っ手か!) 音がしたほうに杖を向ける。 が、風によって窓が揺らされただけだと分かり、ホッと杖を下ろす。 今回の仕事は危険で奇妙な事が重なり、少し神経質になりすぎているのかもしれない。 (今夜は月が明るいねぇ) 窓から外を眺めるフーケを双月が優しく照らした。 ふと、フーケはある少女の事を思い出す。今頃元気にやっているだろうか。 月の中に彼女の笑顔が浮かぶ。 だが、雲によって月が隠れたことでその幻影も消えた。 ……少し感傷的になっている自分に思わず苦笑する。 冷静にならなくては。本当の勝負は明日だ。今は疲れを少しでも取らなくてはならない。 とりあえず今は「追跡者」は存在しないんだから………… しかし、それは大きな勘違いだった。 主の命令を聞き、愚直なまでに行動し続ける者がいた。 それは巨大なゴーレムに目もくれず、ただ盗賊の後を追い続けていた。 森の木々の影の中を、音も立てずに這いずり回る。 ブラック・サバスは小屋のすぐ側まで来ていた。目的はあの中にいる。 だが入るためには影が足りない。だから待つ。機会が来るまでひたすら待つ。 そのとき風が吹いた。小屋の窓がカタカタと鳴る。 一瞬、本当に一瞬月が雲に隠れる。 それだけで十分だった。ブラック・サバスはすでに小屋の側から、小屋の中へと侵入していた。 フーケの叫びが夜の森にこだまする。 深夜の第2ラウンドが始まった。
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「はッ!ふー、ひでー夢だったぜ、ゴーレムに踏みつけられてへし折られるなんてよ」 目を覚ましたデルフリンガーが開口一番先程まで見ていた夢のことを口にする 「夢じゃないわよ」 「ってめえ胸が貧しい娘っ子、ん?さっきまで夜だったてえのに、ここぁどこだ、いったい何があったんだ」 「誰がド貧乳よ!呼んだのはディアボロであんたは呼んで無いわよ、 大体ゴーレムに踏まれて真っ二つに折れてたのに何で元に戻ってるのよ?」 「真っ二つ?傷一つどころか錆も浮いてねーぜ、夢でも見たんじゃねーの」 「だから夢じゃないって言ってるでしょ、ペシャンコに潰れたディアボロと一緒にポッキリ折れてたんだから、 て思い出させるんじゃないわよ、気持ち悪くなってきたじゃない」 剣相手に漫才を繰り広げるルイズを赤毛の少女が止めに入る 「ルイズ、ルイズ、漫才もいいんだけどそろそろ作戦を進めた方いいんじゃないかしら? ほら、彼方の使い魔も待たせている様だし」 「え、ああ、そうね」 ルイズの説明では ディアボロを踏み潰したゴーレムは土くれの異名をとる盗賊フーケのもの フーケに学院の所蔵する破壊の杖をまんまと盗み出されてしまった 今ここに居る面子は破壊の杖の奪還とフーケの討伐を志願した者達 赤いのがキュルケ、青いのがタバサ、緑色のがミス・ロングビル ここはミス・ロングビルが得た情報によるとフーケの隠れ家らしい小屋の前 突入前に偵察を行う為、ディアボロを召喚した ということらしい 「小屋の中にフーケが居るかどうか確認して頂戴、居たら合図を送って、合図と同時に魔法で吹き飛ばすから」 「それだと俺まで吹き飛ぶぞ、小娘」 「あんた死んでも生き返るから何があっても平気でしょ」 「…殺す気か」 「じゃあ如何しろって言うのよ」 「こうすればいい」 ディアボロはデルフリンガーを持つと大きく振りかぶり、 「おい、何すんだ」 「向うに着いたら中の様子を知らせろ、いいな」 返事を待たずに小屋に向かってぶん投げた 「うおおおーーーッ」 戸をぶち破ってデルフリンガーは小屋の床に突き刺さった 「どうだ?」 「誰もいねぇよ、誰かが居た形跡もねえ」 偵察の結果を聞いたルイズ達が小屋に入ってくる 「本当に誰も居ないわね」 「何かフーケの手がかりが有るかも知れないわ、探しましょ」 「破壊の杖」 言うが早いかあっと言う間に奪還目標である破壊の杖を見つけてしまう そんな時小屋の屋根が吹き飛んだ これ以上無いと言う位見通しの良くなった天井からは昨晩と同じく30メートル程の大きさを誇るゴーレムが見えた 『フーケのゴーレム!!!』 三人娘が何するものぞと魔法を放つが通用しない それを見たロングビルが前に出る 「ミス・ロングビル!」 「私もフーケと同じ土のメイジですわ、足止め位して見せます ですから早く逃げて下さい、そして破壊の杖を学院へ」 タバサの合図で現れた風竜に乗り、4人は学院に向かって逃走に移る しかし、しばらくするとロングビルを退けたのかゴーレムが歩幅も大きく歩き出した 「追ってくる、タバサもっとスピードでないの?」 「無理、重すぎる」 「ディアボロ、あんた囮になんなさい」 「なに?」 ルイズの蹴りがディアボロを破壊の杖ごと空中へとダイブさせた 「くッ、小娘め」「何しやがんだ、このド貧乳!」 地面に着いたディアボロとデルフリンガーに気付いたのかゴーレムが迫る ディアボロは手元に転がっていた破壊の杖を手に取ると頭に浮かんできた使い方そのままに、 後部を引き伸ばして展開しゴーレムに筒先を向ける (足を狙ってもこの距離では安全距離を切っている、当たっても爆発しない しかし上を狙えば…) ディアボロが角度を付けて引き金に触れると同時に起きた爆発がディアボロごとゴーレムの足元を吹き飛ばした ■今回のボスの死因 破壊の杖が暴発して爆死 ■おまけのデルフリンガー ボスの巻き添え食らって死亡?
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ズキュウウウウウウウウウウウウウウウン 鉄塔から凝縮された破壊のエネルギーが発射される。 圧倒的なエネルギーの奔流は渦を巻きフーケとそのゴーレムに襲い掛かる 「ひっ・・・」 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!! 先ほどとまったく同じ爆発がフーケを包み込む。 「アラヤダーーーーーーーー!!!!」 ゴーレムは粉々に消し飛びフーケはきれいに吹っ飛んで星になった。キランという効果音つきで。 「あなたの敗因はただ一つ・・・あなたは私を侮辱した」 ビシ、とポーズを決めルイズは空を見上げる。 屋根は完全に崩壊し空に浮かぶ二つの月が煌々と辺りを照らす。 月の光を浴びる錆びた鉄塔はちょっとした絵画のようだった。 「ふ・・・ふふ・・・なんか悪くないわね、こいつ」 フーケを撃退したルイズはいたくこの鉄塔を気に入った。 そうだとも、閉じ込められて最悪の気分だったがこの鉄塔は悪くない、悪くないのだ。 破壊の杖の魔法すらはね返すこいつはある意味最強の盾だ。どんな外敵も恐れる必要はない。 床を整備すれば二階にも住めるようになるだろう。貴族の住処としては、まぁ及第点だ。 ご飯は・・・給仕に運んでもらえばいいか・・・いやそれ以前にまずトイレを・・・ ルイズの妄想が加速し思考が一巡しようとしたとき、 ヴォン ヴォン ヴォン カッ! 「きゃっ!」 まばゆい光が辺りを包み込んだ。その光が消えるとそこには、 「・・・あれ?」 鉄塔は消えうせ足元には一枚の円盤が落ちていた。 次の日学園は大騒ぎになった。 当然だろう、あの土くれのフーケをやすやすと学内に侵入さえあまつさえ宝物庫を叩き壊されたのだから。 だがそれは一人の英雄によって阻止された。言わずもがな彼女、ルイズ・フランソワーズ~中略~ヴァリエールの手によって。 フーケは近くの森で上半身が地面に刺さった状態で衛兵に発見された。 あの爆発でよく生き残れたものだとルイズは感心した。ギャグって素敵ね。 「ミス・ヴァリエール、良くぞフーケより破壊の杖を死守してくれた」 「いえ、オールド・オスマン。残念ですが破壊の杖は・・・」 破壊の杖はフーケのゴーレムと一緒に消し飛んでしまった。 当然と言えば当然だろう。フーケが生きていることのほうが奇跡なのだから。 「よいよい。フーケに杖を盗まれなかった、このことが重要なのじゃ。貴族の面子と宝物庫の宝一つ。 どっちが重要かは火を見るより明らかじゃ」 「ミス・ヴァリエール、あなたには精錬勲章の申請を行うことにしました。あ、もちろん 使い魔の再召喚もすぐに行えるように手配しています。建物が直るまでもう少し待ってください」 「・・・・・・・・・・・・・」 そうだ。彼女の召喚した使い魔はあれ以来消えてなくなった、銀色の円盤を残して。 「ちょっと! ちょっとあんたどこいったの?答えなさいよ! ねえ!」 「ご主人様に黙って消えちゃうなんて許されると思ってるの? 使い魔のくせに!」 しかしその呼びかけに答えが返ってくることはなかった。 最初から最後まで鉄塔は無言を貫き通し、そしてクールに去っていった。 「はぁ・・・・・・」 それゆえに彼女は精錬勲章の話を聞いてもあまり嬉しくなかった。 無論一生鳥籠の中よりは絶対今の状況がましなのは事実だが。 あーあ、せっかくあいつとなんとかやっていけそうになるかなと思ったのにな。 ルイズはひとりごちた。 銀色の円盤の正体はは結局何なのかわからなかった。それは光に当てると虹色の輝きを発する不思議な円盤だった。 円盤の裏にはなにやら文字が書き込まれてあったがトリスティンで使われている文字でないらしく、読むことは出来なかった。 ガラクタ好きのミスタ・コルベールは早速目をつけこの円盤が何なのかを研究に取り掛かった。 しかし、彼の知識をもってしてもこの円盤がなんなのかをついに解明することはできなかった。 「いやいや、解明できなかったとは失礼じゃぞい。確かにこの円盤の正体はわからなかったが裏側に書いてあった 文字はほれ、解読できたぞ」 「! なんと書いてあるのですか?」 「うむ、この文字はトリスティンはおろか、ゲルマニア、アルビオン、どの国の言葉でもない。 しかし東方から伝えられたと言う書物に同じ文字が使われておった。 この左側の五文字は「SUPER」、右側の三文字は「FLY」と読むらしいのじゃ」 「SUPER・・・FLY・・・スーパーフライ?」 「うむ、書物どおりに読み解くと『素晴らしき大空』という意味らしい」 「素晴らしき・・・大空ですか」 それがあんたの名前なの? その問いかけには無論、円盤は答えなかった。 結局円盤は破壊の杖の代わりに宝物庫に収められる事になった。 トリスティン魔法学園を救った英雄の使い魔、そのなれの果てとして。 2ヵ月後 「それではミス・ヴァリエール前へ」 「はい」 待ちに待った再召喚の儀式の日。 私の心は嫌が応にも高まった。 今度こそちゃんとした使い魔を。あいつなんかより愛想がよくて働いてくれて・・・そしてクールでかっこいい使い魔を! 「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ… 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ 私は心より求め、訴えるわ 我が導きに…答えなさいッ!!」 ・・・・この後彼女はトリスティン魔法学園の地下一円に広がる大迷宮を呼び出してしまうことになるのだが、 それはまた別のお話。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/876.html
「ふんふんふーん♪」 食堂で食後の紅茶を楽しむ少女、ゼロのルイズはご機嫌だった。 今日のデザートは彼女の好きなクックベリーパイなのだ! なにやら食堂の一角が騒がしくなっている気もするが、彼女にとって今は誰にも 邪魔されたくない至高の時間なのである。 使い魔がそっちの方に行ったような気もしたが、当然無視した。 「まったく、あの馬鹿ったら…」 食堂で食後の紅茶を楽しむ少女、香水のモンモランシーは先日の事を思い出して 不機嫌になっていた。 「ギーシュ、ポケットから壜が落ちたぞ」 「おお!その香水はモンモランシーのものじゃないか!」 「つまりギーシュ、お前はモンモランシーと付き合っている。そうだな?」 「ち、違う!彼女の名誉の為に…ケ、ケティこれはその… ヒィ!も、モンモランシー!?違う、違うんだ!」 「ヘイ!ケティ、マスク狩りの時間だ!」 「OKモンモランシー!」 「クロス!」「ボンバー!」 「ウギャー!キン○マ―ン!」 「すまないギーシュ!僕が壜を拾わなければ…」 「いいんだ…それより、誰か僕の顔を見て笑っていやしないか?」 「誰にも…誰にも笑わせはしない…」 「ありがとう…マルコメミソ」 「マリコルヌ!風上のマリコルヌだよ!?」 つまりは、付き合ってる男に二股かけられたのである。 気位の高い彼女には、とてもとても許容しがたい出来事であった。 気位が高くなくても許容できない話だと思うが。 それでも謝られると許したくなってくるのが、余計に腹が立ってくるというかなんというか。 「どうぞ」 そんなことを考えていると、メイドがデザートを机に持ってくる。 当然貴族である彼女が『ありがとう』等と、平民に一々礼を言うわけも無く、 配った彼女を見ようともしないでクックベリーパイを口に運ぶ。 「…ちょっと、そこの貴方」 「え、私ですか?」 ケーキを配ったメイドが、貴族に呼び止められた事に当惑して立ち止まる。 「これ…どういう事?」 シエスタはこれ以上ないというぐらい脅えていた。 目の前の貴族、学生といえど魔法を操り、平民である自分にとって絶対的な存在が 自分に怒りをぶつけているのである。 「申し訳ございません!どうか、どうかお許しください!」 体の震えが止まらない。 「お許しください、ですって? 貴族である私の口に、平民である貴方の髪の毛を入れておいてお許しください?」 「お願いします、どうかお許しを!」 涙が溢れてくる。 平民の自分が貴族に粗相をして唯ですむはずが無い。 周りを見ても、他のメイドは見てみぬフリをし、貴族は何事かと一度は見るものの、 平民が貴族から罰を受けているとわかれば、あとは特に関心をしめさない。 助けなど望むべくも無いのだ。 シエスタにとって不幸だったのは、モンモランシーの機嫌が悪かった事だ。 そうでなければ怒りこそすれ、基本的に野蛮な事を嫌う彼女が『お仕置き』を する事もなかっただろう。 「覚悟はいいかしら?」 魔法の杖を取り出し、残酷に告げる。 「どうか…」 脅えるメイドに、嗜虐心をそそられたモンモランシーが杖を振ると、 メイドの頭上から水が降り注いだ。 「あら、似合ってるじゃない?」 ずぶ濡れになった姿を見て、にっこりと微笑むモンモランシーの姿に、 シエスタは更なる恐怖を覚える。この程度で済むはずが無いのだ。 「あぁ……ぁ……」 「さあ、次は…」 魔法を繰り出そうと杖を振り上げた瞬間、誰かがその腕を掴んだ。 「やめないか!」 育郎が食堂での騒ぎに気付き、駆け寄って見た物は、杖を振り上げる女生徒の前で、 先日世話になったシエスタがずぶ濡れになって震える姿だった。 「な、何よ貴方!?平民が気安く貴族にさわらないでよ!」 女性が抗議の声をあげるが、無視して育郎が尋ねる。 「君は何をやっているんだ!?」 「ハァ?この子の持ってきたデザートにね、髪の毛が入ってたのよ。 粗相をしたメイドにお仕置きして何が悪いのよ?」 「な!?そんな事で…」 「さっさと離しなさいよ!」 モンモランシーが、呆然とする育郎の腕を振り払おうとするが、 掴まれた腕はまったく動かない。 「彼女に謝るんだ」 静かに、だが強い意志を持って育郎の口から出た言葉を、モンモランシーは 鼻で笑って拒否する。 「謝る?何で貴族の私が平民に謝らなきゃいけないの? それに悪いのはこの子の方じゃない」 「君が怒るのもわからないわけじゃない…でもこれはやりすぎだ!」 「な、なによ…」 なんだなんだと、周りの生徒が2人のやり取りに気付く。 「おい、平民が何やってるんだ!」 「あれは…ゼロのルイズの使い魔じゃないか?」 「主人が主人なら使い魔も使い魔だな…」 周りの生徒が騒ぎ出した事により、少し弱気になったモンモランシーが勢いを取り戻す。 「さあ、早く手をはなしなさい!」 しかし育郎は手をはなそうとはせず、モンモランシーを見据える。 「彼女に謝るんだ…」 な…なんなのこいつ!? 生徒達に囲まれても、まったく物怖じせずに自分を見る育郎に、モンモランシーは 恐怖とまではいかないが、言いようのない不安を感じていた。その時、 「君!今すぐその汚い手を、僕の愛するモンモランシーからはなすんだ! さもなくば、このギーシュ・ド・グラモンが相手になってやろう!」 ギーシュは先日の事を謝る為に、愛するモンモランシーを探していた。 ポケットには今月の小遣いの大半をはたいて買った指輪が入っている。 「これを精一杯の愛の言葉と共に渡せば、彼女もきっと許してくれるに違いないさ」 彼は女の子が好きで、特にかわいい女の子が好きで、さらに女好きの家系という 環境で育ち、あとちょっと頭が弱かったりするため、つい二股なんてしてしまったが、 それでもなんのかんの言って、モンモランシーが一番好きなのである。 「モンモランシーならまだ食堂にいたわよ」 彼女の友人の言葉に従って食堂に行って見れば、なんとモンモランシーが平民、 ゼロのルイズが呼び出した使い魔に凄まれているではないか! 当然の如く、彼は愛するモンモランシーを助ける、というよりは相手が平民なので、 どちらかというと彼女にいい格好を見せる為に、前に出たのであった。 「ああ、ギーシュ!」 そんな思惑も見事に的中したようで、不安になっていた彼女が元気を取り戻す。 「聞こえなかったのか?手をはなすんだ…」 彼なりの凄みを効かせて育郎に薔薇の形をした杖を向ける。 「ほ、ほら早くはなしなさいよ。痛いじゃないのよ!」 「あ、すまない」 やっと手をはなした育郎を見て、モンモランシーは先程の不安を思い出し、怒りに震えた。 この平民にどんな罰を与えてやろうか? 平民が貴族に向かって生意気な目を向けてきたのだ… そうだ!ギーシュのゴーレムを使って痛めつけてやろう! 「まったく、貴方にも躾が必要なようね、ギーシュ!」 「ああ、任せてくれたまえ、モンモランシー…」 「とにかく、シエスタさんに謝るんだ」 「そう、このメイドにあやまって」 「ふっ、何がなんだかよくわかんないけど…すまないね、君」 「は、はぁ…」 「………って違うわよ!ギーシュ、貴方も何言うとおりにしてるの!?」 「え、でも君が謝れって?」 「貴族の僕たちが、何故平民なんかに頭を下げなきゃいけないんだ?」 事の経緯を聞いたギーシュがやれやれと首を振る。 「そうよ!大体平民の貴方が私に気安く触れるなんて…」 「そうだ、僕の愛しいモンモランシーになんてことをするんだ? だいたい、そのメイドが悪いんだろう?」 「…だからと言って、ここまでする事は無いだろう」 育郎が呆然とするシエスタを快方する。 うーん、なんだか変なことになってきたぞ? ギーシュの予定では、今頃は格好よく現れた自分がこの平民を叩きのめし、 モンモランシーからお礼のキスでも貰っているはずなのである。 それがこの平民と来たら訳のわからない事を言って、予定とは違う方向に 話が向かっている。 そういえば何で僕がメイドに頭を下げてるんだ?思い出したら腹が立ってきた。 モンモランシーも機嫌が悪くなってるし…よし、ここで一つ良いとこを見せよう! 「モンモランシー…彼の言うとおり謝ってあげてもいいんじゃないか?」 「な、何を言ってるのよギーシュ!」 先日の一撃で頭のどこかが壊れてしまったのかと、驚きながらギーシュを見る。 「ただし、僕に勝ったらだ………『決闘』だよ!!」 オオーッ!と周りから歓声が上がる。 「『決闘』?」 「そうだよ、正々堂々戦い、負けたほうが勝った方のいう事を聞く。どうだい?」 「そんな!?」 おどろく育郎を、脅えているととったギーシュは、調子に乗ってさらに続けた 「貴族から『決闘』を申し込まれたんだ、まさか断るは言わないよな? いや、所詮『ゼロのルイズ』の使い魔…主人同様出来損ないなら、 臆病風に吹かれてもしかたあるまい…」 その言葉に周りの生徒達から笑いが起こる。 「…わかった、受けよう」 「そんな!?育郎さん駄目です!」 育郎が女生徒を止めた時、シエスタの目には彼がおとぎ話の勇者の如く映った。 物語のなかから出てきた英雄が自分を救いにきてくれたのかと。 しかし、時が立つにつれ怖くなってきた。育郎はただの平民なのだ、 それが貴族と『決闘』だなんて…自分のせいで育郎が殺されてしまうかも知れない、 そう思うと先程より強い恐怖が襲ってくる。 「イクローさん、相手はメイジなんですよ!?殺されちゃいます!」 「殺される…だって!?」 驚いた育郎の顔を見ると胸の中が罪悪感でいっぱいになる。 もっとも、育郎が驚いたのは、生命の危険を感じたからではないのだが。 「僕はヴェストリの広場で待っている…逃げるなよ?」 ギーシュがそう言ってモンモランシーと一緒に去っていく。 「私が…私が悪いんです…だからイクローさんがこんな事を…」 ついには泣き出してしまうシエスタ。 「いいんだ…大丈夫だから」 「何が大丈夫なのよ!」 いつの間にか現れたルイズが育郎を怒鳴りつける。 「あんたどういうつもりなのよ、貴族と『決闘』だなんて!? ちょっと馬鹿力だからって調子に乗らないでよ…ほら、一緒に謝ってあげるから」 「それは出来ない…」 「なんでよ!?いい、メイジに平民は絶対に勝てないの! 心配しなくても、誰もあんたを臆病者なんて言わないわよ…」 「…違う」 「な、何が違うのよ…」 育郎にとって臆病者と呼ばれることなど、どうという事は無かった。 シエスタの事もあったが、逃げればルイズも馬鹿にされてしまう、 それが彼に『決闘』を受ける決心をさせたのだ。 「シエスタさん、彼の言っていた広場はどこですか?」 「駄目!?駄目です!」 涙を流しながら必死で止めようとするシエスタをなだめながら、 育郎は近くにいた生徒に広場の場所を聞く。 「何やってるのよ!?やめなさいって言ってるでしょ、ご主人様の命令なのよ!?」 「…それはできない」 「………もう知らない!ギーシュの馬鹿にボコボコにされればいいのよ!!」 走り去るルイズの後姿を見送り、シエスタを他のメイドに任せてから、 育郎は広場に向かった。 果たして、僕はあの力を使わずにすむのか? そう考えながら… 「何か俺忘れられてねーか?いらない子認定されてね!?」 そのころデルフリンガーは言いようの無い不安を感じ、思考がネガティブになっていた。
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タバサの使い魔であるシルフィードが地上に近づくと、フーケはスタコラサッサと逃げていった。 キュルケは他の面々と比べ無傷であったが、止めようとはしなかった。 魔力がない、というのもあったがそれよりも、気力が微塵も残っていなかったからだ。 船倉にぶち込まれ、最後の宴に招かれ、級友の結婚式に出たかと思うと裏切り者との戦いになった。そして最後にアルビオンの崩壊を目の当たりにした。 その瞬間は、胸の奥に虚無感が広がっていた。王子の誇り、国民への思い、散っていたものたちの忠誠心、すべてが走馬灯のように脳裏を過ぎった。 こんな状態では、戦うことなどできようはずがなかった。 彼女らはそのまま空を疾駆していき、トリステインの王宮へと向かった。 怪我人が三人もいて内二人は重体なので一刻もはやく治療しなければならないのだが、任務の完了も即座に伝える必要がある。 しかし、着いてみれば多くのマンティコアにのった警備隊に囲まれてしまった。彼らは大声で飛行禁止だと叫び、どこか遠くに行くよう命じた。 「……な、なんだね? ここは、どこだい?」 「あれ? キュルケ?」 「あら、ギーシュにルイズ、起きたの? ここは王宮の上空よ。タバサ、無視して降りちゃいましょ」 「わかった」 タバサがシルフィードを中庭に下降させた。そしてルイズたちは地面に降り立つのだが、もちろん衛兵に囲まれてしまった。 「杖を捨てろ!」 隊長らしき男に命令される。ルイズが少し顔をしかめていたがすぐに四人とも杖を地面に放り投げた。 「……何者だ貴様らは。えらく若いようだが」 その問いに、ギーシュが答えた。 「僕はトリステイン魔法学院に通うギーシュ・ド・グラモン。グラモン元帥の息子であります。アンリエッタ王女より与えられた密命を終え、いましがた帰還したしだいであります」 「なるほど。確かにグラモン元帥によく似た瞳をしている。だが、なぜ王女からそんなのものを受けたのだ?」 「こちらのラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズがアンリエッタ王女と幼少のみぎりより親しいものであったことでその命を受けたのです。僕らは彼女の級友であられます」 ルイズが小さくうなずいた。 「……嘘は言っておらぬようだが、確認をしなければならない。貴公らは一応拘束させてもらう」 隊長がそう言って杖を向ける。周りの者たちもそれに倣ったが、その行為を止めるかろやかな声が届いてきた。 「おやめなさい」 その声を知らぬものはここにはいない。警備隊の面々が背後に振り向くと、そこに彼らが敬愛するアンリエッタ王女がいた。彼女はやや早足でルイズたちに駆け寄った。 「姫様……」 「ルイズ、よくご無事で」 アンリエッタはそう言って小さな身体を抱きしめようとしたが、キュルケとタバサに止められる。 「怪我人」 「そういうわけだから、まずは医務室に運んでくださる? まだ竜の上に怪我人はおりますから」 「……わかりましたわ。あなたたち丁重にお運びして」 「かしこまりました」 数時間後、ルイズが目覚めるとそばにはキュルケとタバサがいた。彼女は目を何度かしばたたかせると、ゆっくりと重たそうに身体を起こした。 「……キュルケ、ここどこ?」 「忘れたの? 王宮よ。あなた治療の最中にまた眠ったのよ」 「手紙は?」 「急がないの。いまお姫様を呼んでくるわ」 キュルケはそう言って部屋を出て行った。ルイズはベッドから降りようとしたが、タバサに止められる。 「安静」 ほんの一言だけだったが力のある言葉だ。ルイズも自身の体が思ったより言うことを聞いてくれなかったのでもう一度横になった。そうしたら、すぐにキュルケがアンリエッタを伴って戻ってきた。 「姫様……こんな格好で申し訳ありません」 「何を言ってるの。私こそ一番のお友達をこんな目に合わせてしまって詫びなければなりませんわ。ごめんなさい。ルイズ」 アンリエッタが頭を下げた。 「……いけません。頭を下げては」 「いいえ。ルイズ、私はあなたに謝らないといけないわ。彼女から聞きました。ワルド子爵が裏切り者だったということを。ごめんなさい。あなたの婚約者だというから任せたのですが」 「……頭をお上げください。姫様。かまわないのです。それよりも、お手紙は、」 「はい。確かに、受け取りました」 「よかったです。ほとんど気を失っていたので、落ちてはいないかと気が気でなりませんでした」 ルイズは小さく笑った。と、そこで大事なことを知らないことに気づいた。 「キュルケ、ウェールズ皇太子は……」 「そのまま戦いに向かったわ。おそらく生きてはいないでしょうね」 なんの含みも持たず、彼女はあっさりと残酷な事実を告げた。キュルケも直には見ていないのだが、そうに違いないと思っていた。 ルイズが見ると、アンリエッタは小さく震えていた。胸の内がどうなっているのか、心の中にどれほどの嵐が巻き起こっているのか、それは彼女本人しか感じることができなかった。 涙を数滴、手の甲に落として尋ねた。 「ルイズ、あの方は勇敢でありましたか?」 ルイズはウェールズの顔を思い出し、答えた。 「誰よりも勇敢でした」 ルイズが授業に復帰したのは一週間後であった。彼女の傷は深く、完治に時間が掛かったのだ。ンドゥールも、そう傷が深かったわけではないが精神力を使い果たしたためか意識を取り戻すのに時間が必要だった。 そうして復帰一日目、ンドゥールを伴って教室に入ると一斉にクラスメイトの視線が二人に集中した。 今までのものとは違う。嘲りもあるにはあるのだが、それよりも疑いが強かった。それを不審に思いながらもンドゥールといつもの席に向かって教師を待った。 その時間にもなんだかこそこそと噂話みたいなものをしていてルイズは肌がムズムズした。ここで彼女は適当な人間に問い詰めてみようとしたがまともな答えを返されるとは思いがたい。そのため、隣のンドゥールに小声で尋ねた。 「ねえ、一体何の話をしてるの?」 「……欠席していた期間についてのことだ。詳しくはわかっていない ようだが、なにか重大な任務を受けていたということを知られている」 ルイズの頭にすぐさま思い浮かんだのはキュルケ、タバサ、ギーシュの三人だった。このうちの誰かがちょろっと口を滑らせてそれが熱病のように伝播した可能性がある。 それが誰なのかを考えてみる。 まずタバサは除外。彼女はべらべらと話して回ることなど予想ができない。 もう一人はキュルケだ。彼女なら微熱がどうたらこうたらで上級生にも下級生にも粉をかけている。付き合いの最中にそういうことを言ってしまったのかもしれない。 しかし、その割には早すぎる。彼女もアルビオンから帰ってすぐさま男と遊ぶようなことはしないだろう。たぶん。そうなるとギーシュが残る。彼なら恋人であるモンモランシーに自慢をして、ギーシュってばかっこいい、なんて言われて有頂天になってるんじゃなかろうか。 そう結論が出たのでギーシュを見つめる。と、なんだかおかしなことに彼の表情からいつもと違う感じを受けた。取り巻きとの会話にも適当に返事をしていて女の子とも話をしていない。ぱらぱらと教科書をめくっている。 (あんな熱心だったかしら) ルイズは結局、ギーシュも違うみたいだと思い、犯人探しを諦めた。 昼休み、食堂でルイズはキュルケとタバサたちと一緒だった。ちなみにンドゥールも隣に座って彼女たちと一緒の食事を取っている。主人であるルイズは食堂に入った当初、彼をいつものように床に座らせようとしたが、それはなんとなく気が咎めた。 「あのさ、なんであれが広まってんの?」 「私にもわからないわよそんなの。戻ってきたときにはもう私たちがなにかをやったって話があったのよ」 「まずいわよねえ……」 「そうでもない」 タバサがサラダを食べながら言った。 「誰も核心には近づいていない。大丈夫。例のことは明るみにならない」 「そうだな」 ンドゥールが同意を示した。 「誰も結局答えにはたどりつけていない。ただの噂の域を出ない。 しばらくすれば消えるだろう」 「なら、いいんだけど」 ルイズたちは、改めて誰にも話さないことを約束した。回りまわってゲルマニアの王に届いたら婚約破棄の可能性も出てくるのだ。 しかし、噂話はその数日後にはあっさり掻き消えてしまった。なにしろもっと大きな事件が起こったのだ。 朝一番の授業を受けるためルイズたちが教室に向かうと、扉の前に人だかりができていた。彼女は先に来ていたキュルケにどうしたのかを尋ねた。 「あれ、見なさいな」 「どれよ」 「あれ。扉に張り紙されてるじゃない」 ルイズは見ようとした。しかし、背が低いので見えなかった。ぴょんぴょんと跳ねるも無意味。それを見かねてキュルケが教えてやった。 「全部の授業が中止になったの。なんか厄介ごとみたいよ。理由がないんだもの」 キュルケがそう言った意味がルイズにはわかった。休講する場合、普通は教師が病気になったり急な出張だったりする。だが今回は全授業が中止、しかも理由がない。つまり、生徒たちに教えられるようなことではないということだ。 「まさか、手紙が関係してるんじゃあ、」 「ないでしょ。それなら真っ先に私らが呼ばれるわ。気になるならダーリンに頼めばいいわ」 「だからダーリンって呼ぶんじゃないわよ。でも、あんたの言うとおりね。 ンドゥール、頼めるかしら」 「かまわん」 三人はその場を離れ、図書館に向かった。そこは広さの割にはほとんど人はおらず、静かである。本の貸し出しも自由ではあるが、滅多に学生はやってはこない。そのため秘密の相談ごとにはうってつけの場所だ。 ルイズとキュルケは適当に棚から本を抜き取り、テーブルに着いた。 そこでぱらぱらと本を開いて読む振りをする。誰かに見られているというわけではないが、念のため熱心な学生を演じているのだ。 そして数分経過すると、ンドゥールがルイズのいすを叩いた。状況がわかったというサイン。 「で、どうだったの?」 決してンドゥールに視線を向けず、本を睨んだまま小声で尋ねる。 「どうということはない。この学院に多額の寄付をしていたモットというメイジが襲われた。ここの教師が何らかの形でその事件に関わっていないか取調べを受けているらしい」 「なんでわざわざ怪しまれるの?」 「その襲った人物が土系統のメイジだからだ」 二人が大声を出さなかったのは奇跡的なことだった。 メイジを倒せる土系統のメイジ、そんなやつは一人しか思い浮かばない。『土くれ』のフーケ。彼女ならそこらのメイジなんざ簡単に倒してみせるだろう。 しかし、ンドゥールはこうも続けた。 「フーケではないな」 「どういうこと?」 「下手人は二人組み。そして逃げる際に館に火を放っている。あやつの手口にしてはおかしい」 「ま、そうね。あの女にしちゃ派手だわ。やるとしたら、もっと小ばかにやるでしょうよ」 学院を騒がせている事態が自分たちに関係ないことを知り図書館を出て行こうとしたが、ルイズたちの目にギーシュが映った。彼はテーブルに座って本に目を通している。 その眼差しにはいつもの軽薄さはなく、なんというか『必死さ』があった。 「ねえ、あいつどうしたの?」 先に授業に復帰していたキュルケにルイズが尋ねる。 「私も知らないわよ。でも、フーケにコテンパンにされたのがさすがに堪えたんじゃない? あいつ、皇太子のことを随分気にしていたもの」 「……そう」 ルイズの胸にちくりと針が刺さった。任務を果たせたとはいえ、愛しい友の本当の願いは叶えられなかったのだ。 アルビオンが消えたことからおそらくあの皇太子も死んでいるはず。生き延びるなどということはしないだろう。 彼女は父のことを思い浮かべる。貴族であるため戦争になれば戦いに 借り出されることもあるだろう。金を払えばそうでないが。それでも、やはり最悪のことを想定せざるにはいられない。力、困難を打ち返せる力が必要だ。薬指にしている水のルビーがきらりと光った。そう、あの愛しい姫のためにも。 「それでルイズ、あんたこれからどうするの? 暇でしょ。自習でもする?」 「……そうね。練習、するわ」 「練習?」 ルイズは人気のない広場にやってきた。そこで適当なゴミを地面にばら撒き、杖を振るい、呪文を呟く。そして、これはもういつもの光景ではあるが、爆発した。 黒煙が舞い上がり、ルイズの顔には煤がこびりついた。彼女はぺっぺとつばを吐いて口に入ってきた砂を出した。それでももう一度呪文を唱える。またしても、爆発。 いま彼女が唱えている魔法はどの系統にも属さない初歩的なものだ。そんな簡単なものさえ成功しない。だが、何度も何度もルイズは魔法を唱えた。何度も何度も煤を浴び、顔どころか鮮やかな桃色の髪をも真っ黒にしてしまった。やがて、ゴミが全て爆発で粉々になってしまったところでキュルケが声をかけた。 「大丈夫?」 「んなわけないでしょ。あんたより黒くなっちゃってるんだもん」 「褐色を飛び越えて炭よね。これじゃあ」 「うるさい」 ルイズは邪険にあしらい、今度は地面に転がっている石に向かって魔法を唱えた、ところで杖を奪われた。 「ちょっと! 返しなさいよ!」 「駄目よ。ちょっとは休憩しなさい。体に毒だし、それ以上汚くなる前に顔を拭きなさい。ダーリン、こっちよ」 キュルケが呼びかけた先には、布巾を持ったメイドのシエスタと湯を張った桶を持って歩いてくるンドゥールがいた。 ルイズは濡らした布巾で顔をぬぐい、うがいなどをした。それでも髪はどうにもならないのでシエスタに洗ってもらっている。ルイズはそんな必要はないといったのだが、キュルケとシエスタが女として駄目だと言ったのでそうさせている。 「それで、成功したのか?」 「見たらわかるでしょ」 「見えん」 「……そうね。相変わらず『ゼロ』よ」 ルイズは不貞腐れた声だったが、それでも気落ちはしていなかった。 それどころかこのときでさえも杖を弄くっている様から、今すぐにでも練習を再開したいのだろう。 はあ、と、大きなため息をルイズはついた。 「でも参るわ。さすがに。どうして成功しないのよ」 「さあねえ。こればっかりは感覚的なものだから、助言もできないわ」 そんなことはルイズも知っている。だから無我夢中で繰り返し魔法を唱えているのだ。それでも一向に上達の兆しが見えない。 「あの、お聞きしてもいいですか?」 ルイズの髪を洗っているシエスタが問いかけた。 「どうしたの?」 「失敗した場合は全て爆発なんですか? その、単純に気になっただけなんですが」 「私は全部爆発よ」 ルイズは即答した。表情に変化はない。しかし、そばのキュルケは眉間にしわを寄せ、腕を組んでいた。何かを考えているようだ。大きさを強調された胸を憎憎しげに睨みながらルイズが尋ねる。 「どうしたのよ」 「ん、そういえば、私が失敗した場合は爆発しなかったのよね。単に魔力が霧散しただけだわ。たぶん他の連中も同じはず。ねえ、ルイズ。本当にいままで失敗したときは爆発だけ?」 「だけよ」 「おかしいな」 ンドゥールが言った。 「ダーリンもそう思う?」 「ああ。キュルケ、お前は同じ失敗をすることができるか? 同じ爆発を起こせるか?」 「無理よ。私の系統は火。燃やし尽くすことは得意だけど、任意の対象を爆発させることはできないわ。もちろん風も水も土も無理。そうなると、考えられるのは……」 「ねえ、結局どういうこと?」 ルイズが我慢できずに尋ねてきた。自分が話題になっているのに仲間はずれにされているようで嫌だったみたいだ。キュルケは推測と前置きしてから教えてやった。 「あんたの系統、もしかしたら虚無じゃないのかって話よ」 「……あんた馬鹿にしてんの? 虚無って言ったらもう失われた系統じゃない。 使ってるメイジなんか一人もいないのよ」 「違うわよ。卑屈にならないの」 キュルケはルイズの額にデコピンした。 「ま、聞き流してもいいんだけど。念のために先生に聞いてみましょうか。 適当に誰か呼んでくるわ。もう暇な人は何人かいるでしょ」 そう言ってしばらくたち、ルイズの髪がもとの鮮やかな桃色を取り戻したころにキュルケは一人の教師を伴って戻ってきた。遠くから見ても頭のテカリ具合でわかる。コルベールという教師だ。 「どうしたのかね改まって聞きたいことというのは」 「一度見せてやりなさい。ほら」 キュルケが小石を投げた。目の前に落ちたそれに向かい、ルイズは魔法を掛けた。爆発。煤で黒くなった顔を拭き、ルイズはコルベールに尋ねた。 「これについてです。先生、なぜ爆発が起きるんです?」 「爆発、ですか。そういえばおかしいですね。気にも留めませんでしたが」 「先生も確か火のメイジですわよね。あれと同じことはできますの?」 「いえ、できません。爆炎という魔法はありますが、それは空気を錬金で油にして火をつけるといった手法ですからあのような結果にはなりません」 「それでそこのミス・ツェルプストーが言ったのですが、」 「なにかね?」 「私の系統が、もしかしたら虚無ではないかと……」 コルベールは口をつぐみポリポリと光る頭をかく。それがルイズにはどうも馬鹿にされているようにしか見えなかったので強くキュルケを睨んだ。 だが、コルベールが答えたものは彼女の予想とは大違いだった。 「そうですね。その可能性はあります」 「マジで!?」 「ルイズ、言葉」 キュルケに窘められる。 「ああ、いえ、その、本当ですか? 到底信じられるものではないのですが」 「そうでしょうね。ですが、その可能性が一番高いのは事実です」 「で、でで、でも、そんな失敗したときに爆発するだけでそう結論を出すのは、尚早じゃあないでしょうか」 「いえ、それだけではありません。情勢が情勢なので知っておくべきかもしれませんので言いましょう。あなたの使い魔について、です」 「かまわんのか?」 ンドゥールがコルベールに尋ねる。 「ええ、学院長の考えには理解も納得もできますが、生徒に進むべき方向を教えてやるのも教師の務めです。ミス・ヴァリエール、あなたの使い魔は、始祖ブリミルが使役したという使い魔、ガンダールヴです」 「……はあ?」 あまりのことにルイズは目が点になっている。キュルケはンドゥールにじっと目を寄せる。 「彼の左手に刻まれたルーン、それはあらゆる武器を使いこなしたと言われるガンダールヴと同じものです。心当たりはありませんか?」 ルイズ、そしてその場にいたキュルケの脳裏にフーケのゴーレムを倒したときのことが浮かんだ。ンドゥールは誰にもわからなかった破壊の杖を使用していた。それはどうしてだ。どうしてそんな、見えもしないのに扱えたというのか。 「ガンダールヴの主、それは知っているでしょう。始祖ブリミル。虚無の使い手でありましたね」 「じじ、じゃあ、ほんとのほんとに、私は虚無の系統、なんですか?」 「それは、わかりません。情報が少なすぎますから。ですが、その可能性については考慮しておくべきです」 ルイズは自分の杖を見つめ、使い魔を見た。彼女はちょっとこんなことを思っていた。もしかしたら大きな力が手に入るかもしれない。もう守られることがなくなるかもしれない、と。 「しかし、ミス・ヴァリエール」 「は、はい!」 「虚無の力は伝承に残っているだけですが、強大であることは間違いありません。 決して、その力に呑みこまれることのないように、気をしっかり持っていてください」 彼の口調にどこか真に迫るものがあった。そのまま続ける。 「よろしいですか。力というのは獣です。それも獰猛で暴れたがりです。 貴族の誇りと矜持を持って、理性という鎖で繋ぎとめておかなければなりません。 昔、私の部下の一人が己の力に溺れたことがあります。あなたたちは決してそのようなものになってはいけません。いいですね」 「き、胆に銘じます」 「私も」 「よろしい。ああ、他言無用ですよこのことは。もしアルビオンに伝わればミス・ヴァリエール、あなたの命が狙われます。それでは」 コルベールはそう言ってその場を離れた。 姿が見えなくなってからルイズは、ためしに石ころに向かって呪文を唱えた。 また爆発した。 「……本当に、本当に虚無なのかしら」 「さあな」 ポン、と、ンドゥールがルイズの頭に手を置いた。 「しかし、あの教師の言葉は真実だ。気をしっかり持っていろ」
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神の左手シアーハートアタック 勇猛果敢な神の戦車 あらゆる障害を踏み越えて 導きし我を追う者を確実に仕留める 神の右手がキラークイーン 心静かな神の爆弾 あらゆる物を消し飛ばし 我に平穏を与えるは朝昼晩 神の頭脳がアトムハートファーザー 過保護のかたまり神の親父 世界を写真に詰め込みて 導きし我を陰ながら守る そして最後にもう一人・・・・・・ 記すことさえはばかられる・・・・・・ (次ページに続きがある・・・・・・) 【警告】これより先は呼んではいけない (・・・?) 其の名は『バイツァ・ダスト』 時を砕きし神の地雷 我を追う者全てを消し 導きし我は無敵となる (!!!) お前も殺された (・・・!?) 成長した我に殺された (┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨) ( カ チ リ )